今年1月13日、吸入ステロイド薬ブデソニドと長時間作用性β2刺激薬(LABA)ホルモテロールの合剤「シムビコート」が発売された。
ホルモテロールは、作用持続時間が長いLABAでありながら、効果の発現が早く、短時間作用性β2刺激薬(SABA)のような特徴を有する。この即効性がシムビコートの最大の売りだ。
実際、シムビコート160/4.5μgを1吸入、SABAのサルブタモール100μg2吸入、プラセボのいずれかを吸入させて、吸入前後の1秒量を定期的に測定したところ、シムビコートは吸入1分後から、発作治療薬であるSABAと同様に速やかに効果が発現したとの報告がある。
さらに、1日500μg以上の吸入ステロイド薬を処方されている気管支喘息患者247人を、シムビコート160/4.5μg群とブデソニド200μg群に 分け(いずれも1回2吸入1日2回)、12週間の喘息増悪について評価したところ、軽症の喘息増悪を経験しなかった患者の割合は、90日の観察期間中継続 して、シムビコート群で有意に多かった。
製造販売元のアストラゼネカのマーケティング担当者は、「優れた抗炎症効果に加えて、即効性があることで、患者さんが薬の効果を実感しやすく、アドヒアランスが向上するのではないか」と期待する。
日本ではまだ認められていないものの、海外では、同薬を長期管理薬として朝と晩に使用し、さらに、発作時にもSABAの代わりに同薬を使用する「SMART療法」が行われている。この治療法は、重症例でも簡単な処方で管理することができるのが利点だ。
急増する合剤の処方
シムビコートの登場によって日本で使える吸入ステロイド薬は後発品を含め13種類となった。1970年代に最初の吸入ステロイド薬が発売されて以来、吸入ステロイド薬の販売額が増加するに伴い、喘息死は減少し、2008年には過去最低の2348人にまで減少した。
吸入ステロイド薬の普及に弾みを付けたのが、07年にわが国で最初に発売された合剤アドエア・ディスカスだ。吸入ステロイド薬フルチカゾンとLABAサルメテロールの合剤である同薬は、強力な効果と手軽さから、処方する医師が急増し、瞬く間に市場の上位を占めた。
帝京大呼吸器アレルギー内科教授の大田健氏は、「発症早期に介入し、吸入ステロイド薬による通常管理を的確に行えば、喘息は発作ゼロを目指せる時代になった」と話す。
欧米での販売額ベースの合剤のシェア8割弱に対し、日本は4割程度。フルチカゾンとホルモテロールの合剤の開発も進んでおり、日本での合剤のシェアが欧米並みになるのは時間の問題とみられている。
軽症例は単剤で十分な効果
それでは、喘息の管理は今後、合剤だけで事足りるのかというと、そうではない。
現在、「喘息予防・管理ガイドライン2009」では、症状が週1回未満の治療ステップ1は、低用量の吸入ステロイド薬のみで管理することになっており、 LABAの併用は勧められていない。また、症状が週1回以上だが毎日ではない治療ステップ2でも、低用量〜中用量の吸入ステロイド薬で効果が不十分な場合 にLABA、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤を使用するとされている。
大田氏は、「重要なのは、低用量から中用量の吸入ステロイド薬で効果不十分な場合に合剤を使用するという点だ」と説明する。
用賀アレルギークリニック(東京都世田谷区)院長の永倉俊和氏は、「咳喘息や治療ステップ1から2の患者に最初から合剤が使用されているケースが非常に多く、軽症の患者にそんなに強い薬が必要なのか」と疑問視する。
01年に報告されたOPTIMAスタディーで、軽症の喘息患者に、吸入ステロイド薬にLABAを追加して治療を行っても、増悪の頻度に有意な差は見られなかったという結果が報告されており、吸入ステロイド薬単剤で管理できる例に合剤を用いることは、副作用や医療費の面からも適切でないことが示唆されている。
仙台気道研究所(仙台市青葉区)代表の田村弦氏 も、「合剤には長期処方における安全性に関するエビデンスがまだない。現時点では、吸入ステロイド薬単剤でも症状が残る患者や、頻繁に発作を起こして SABAの使用量が多い患者、吸入ステロイド薬とLABAを別々に使用している治療ステップ3以上の喘息患者に使用すべき」との考えだ。
まず吸気流速で使い分け
では、合剤、後発品を含め13種の吸入ステロイド薬をどのように使い分けるべきか。
宮川医院(岐阜市)院長の宮川武彦氏は「これからは、症状に加え、吸気流速なども勘案して、各種吸入ステロイド薬を使い分ける時代になってくる」と話す。
図2は、宮川氏が行う吸入ステロイド薬選択のイメージ図だ。宮川氏はまず患者が吸入の作業が可能かを確認し、患者の吸気流速を調べる。高齢者など吸気流速 が低下している患者は、ドライパウダー製剤を吸入できないことがあるからだ。一般にドライパウダーを吸入するために、吸気流速が60〜90L/分程度必要 とされている。
検査には、製薬各社が自社の薬剤用に作製している、吸気流速測定用の器具を利用するのがいいだろう。口にくわえて空気を吸うと、ライトが点滅して、吸気流速の強さが分かるものや、一定量の吸気流速で音が鳴る仕組みになっていたりといった器具が用意されている。
検査で吸気流速が正常な場合、宮川氏はドライパウダー吸入器(DPI)を選択し、患者の治療ステップによって、合剤か単剤かを選択する。一方、高齢で吸気流速が低下している患者に対しては、加圧定量噴霧式吸入器(pMDI)を選択する。
永倉氏も、「pMDIは噴射と吸入のタイミングを合わせる必要がある。それができない高齢者などには、必ず補助器具のスペーサーを装着して吸入してもらう」と話す。
宮川氏は、患者が、症状が毎日あり、日常生活が制限される治療ステップ3、4の場合は、合剤または吸入ステロイド薬にLABAの吸入薬や貼付薬を追加す る。吸気流速が低下していてもLABAの吸入薬(セレベント)はある程度効果を発揮するので、なるべく局所治療の吸入剤を使用しているという。
「診療所や薬局にこれらすべてをそろえることは難しいので、図2の各群で1種類ずつ、最低3種類用意すればいいのではないか」と宮川氏はアドバイスする。
永倉氏は、「効きが強いと感じるのは、フルタイドディスカス。しかし、吸入すると口の中が粉っぽく、嗄声や口腔カンジダが起こることがある」と話す。一 方、パルミコートについて、永倉氏は、「デバイスが工夫されているので、吸入のときの喉や気道の刺激が少ない。効きは比較的マイルドな印象」と話す。
さらに安全性について、大田氏は、「パルミコートは安全性に関するデータが多いため、妊娠中や授乳中の患者に勧めやすい」と話す。
小児でパルミコート液が好評
乳幼児喘息の長期管理においても、治療の基本は吸入ステロイド薬だ。永倉氏は、「乳幼児は吸入ステロイド薬がうまく使用できないことが多かったが、06年にパルミコート吸入液が登場し、治療が様変わりした」と話す。
パルミコート吸入液は、ステロイドの吸入用懸濁剤。0.25mgを1日2回または0.5mgを1日1回、ジェット式のネブライザーを用いて吸入投与する。6カ月以上5歳未満の乳幼児で使用が認められている。
ネブライザーの噴き出し口に専用のマスクを装着し、患児の口に5分ほどかざしてエアロゾル化された薬剤を吸わせるだけだ。患児は普段通り呼吸をしてもらうだけなので、治療の失敗がほとんどない(写真1)。
実際、現場では高い治療効果が得られている。獨協医大小児科准教授の吉原重美氏 によると、06年9月から07年8月に同院で喘息治療を行った乳幼児84人について、パルミコート吸入液の投与前後各3カ月間の入院日数や予定外受診回数 などを比較したところ、いずれも大幅に減少していた(図3)。同薬については、吸入ステロイド薬が使いこなせない高齢者への適応拡大を望む声が上がってい る。
末梢気道炎症にpMDI製剤
以前は、喘息の病変は主に中枢気道にあると考えられていたが、近年、末梢気道の炎症が強い患者がおり、そのような患者では症状が再燃しやすいことが明らかになってきた。そのため、専門医の間では、末梢気道の炎症に着目した治療薬の選択への関心が高まっている。
中枢気道には平均粒子径が2〜6μmの薬剤が、末梢気道には平均粒子径が2μmより小さい薬剤が沈着すると考えられている。宮川氏は、「吸入の仕方や測定方法などによって変わるようだが、基本的には、キュバールやオルベスコなどのpMDI製剤が末梢気道まで届きやすく、フルタイドディスカスやパルミコートなどのDPI製剤は中枢気道に沈着しやすい傾向がある」と話す。
これまでも一部の難治例において粒子径の大きいDPI製剤を粒子径が小さいpMDI製剤に変更ないしは併用すると、コントロールが改善する例が経験されていた。
宮川氏は、「私の経験では、多くの患者はフルタイドやパルミコートなど粒子径の大きな薬剤が効果を示すが、全体の3割程度は、オルベスコやキュバールなどの粒子径の小さな薬剤に変更するとコントロールが改善する」と話す。
札幌医大内科学第三講座准教授の田中裕士氏も末梢の気道炎症に注目する一人。田中氏は、末梢気道病変がある患者の特徴として、労作時呼吸困難、夜間喘鳴、運動誘発性喘息を挙げる。
同氏は、「高齢者では加齢変化が伴うため、末梢の気道病変が複雑になっている。末梢気道病変は中枢病変とは異なり不均一分布をしており、発作時には末梢気道の炎症が特に顕著に現れる」と話す。
写真2は、喘息増悪時の末梢気道のCT所見だ。喘息の増悪時には、末梢気道の炎症が顕著になるのが分かる。
無症状の炎症残存に注意
東濃厚生病院(岐阜県瑞浪市)アレルギー呼吸器科部長の大林浩幸氏は、誘発喀痰法、呼気中一酸化窒素(FeNO)測定、Impulse oscillation system(IOS)などを使って、末梢の気道炎症を調べている。
これらの検査から、一見症状が落ち着いていても、実は末梢気道の炎症が残存している例があることが明らかになってきた。
大林氏は、「末梢気道領域に残存炎症がある例は、症状が再燃する確率が高い。このような場合、まず、現在使用中の吸入ステロイド薬が正しく使用され、適切 な吸入法や、良好なアドヒアランスが維持できているか確認し、さらに、末梢気道に届きやすいpMDI製剤や経口薬も検討すべき」と話している。
以前は、喘息の病変は主に中枢気道にあると考えられていたが、近年、末梢気道の炎症が強い患者がおり、そのような患者では症状が再燃しやすいことが明らかになってきた。そのため、専門医の間では、末梢気道の炎症に着目した治療薬の選択への関心が高まっている。
中枢気道には平均粒子径が2〜6μmの薬剤が、末梢気道には平均粒子径が2μmより小さい薬剤が沈着すると考えられている。宮川氏は、「吸入の仕方や測定方法などによって変わるようだが、基本的には、キュバールやオルベスコなどのpMDI製剤が末梢気道まで届きやすく、フルタイドディスカスやパルミコートなどのDPI製剤は中枢気道に沈着しやすい傾向がある」と話す。
これまでも一部の難治例において粒子径の大きいDPI製剤を粒子径が小さいpMDI製剤に変更ないしは併用すると、コントロールが改善する例が経験されていた。
宮川氏は、「私の経験では、多くの患者はフルタイドやパルミコートなど粒子径の大きな薬剤が効果を示すが、全体の3割程度は、オルベスコやキュバールなどの粒子径の小さな薬剤に変更するとコントロールが改善する」と話す。
札幌医大内科学第三講座准教授の田中裕士氏も末梢の気道炎症に注目する一人。田中氏は、末梢気道病変がある患者の特徴として、労作時呼吸困難、夜間喘鳴、運動誘発性喘息を挙げる。
同氏は、「高齢者では加齢変化が伴うため、末梢の気道病変が複雑になっている。末梢気道病変は中枢病変とは異なり不均一分布をしており、発作時には末梢気道の炎症が特に顕著に現れる」と話す。
写真2は、喘息増悪時の末梢気道のCT所見だ。喘息の増悪時には、末梢気道の炎症が顕著になるのが分かる。
無症状の炎症残存に注意
東濃厚生病院(岐阜県瑞浪市)アレルギー呼吸器科部長の大林浩幸氏は、誘発喀痰法、呼気中一酸化窒素(FeNO)測定、Impulse oscillation system(IOS)などを使って、末梢の気道炎症を調べている。
これらの検査から、一見症状が落ち着いていても、実は末梢気道の炎症が残存している例があることが明らかになってきた。
大林氏は、「末梢気道領域に残存炎症がある例は、症状が再燃する確率が高い。このような場合、まず、現在使用中の吸入ステロイド薬が正しく使用され、適切 な吸入法や、良好なアドヒアランスが維持できているか確認し、さらに、末梢気道に届きやすいpMDI製剤や経口薬も検討すべき」と話している。
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