結核感染の有無を検査する方法として従来は,ツベルクリン反応検査(ツ反検査)が
標準法であった。しかし,ツ反検査は既往BCG接種の影響を強く受けるため,結核に
未感染であっても陽性を示すことが多く,感染の診断が難しかった。
近年,既往BCG接種の影響を受けずに行うことができる新技術として,「全血イン
ターフェロンγ応答測定法」による検査,すなわちクォンティフェロン(R)TB-2G
(Cellestis社,オーストラリア,以下QFTと略)が開発され,急速に普及しつつある。
QFTは,わが国のようにBCG接種が広く普及している国において特に有用性の高い検
査法であり,医療機関における検査については,平成18 年1月から健康保険適用とな
った。さらに,保健事業費等国庫負担(補助)金交付要綱の改正(平成19年12月5
日,厚生労働省発健第1205004号)により,感染症法に基づく結核の接触者健診にお
けるQFT検査についても,国庫負担金の単価表(対象となる検査項目とその基準単価
が明示)に追加され,平成19年4月1日から適用されている。
そこで,本手引きでは,結核感染の有無の検査法として,QFTを第一優先の検査と
位置づけた。ツ反検査は,乳幼児対象の検査,または実施体制等の問題によりQFTが
実施できない場合の検査,あるいは集団感染対策でQFTを効率的に実施するための補
助的検査として位置づけた。
また,旧結核予防法に基づく定期外健診では,従来の「初感染結核に対する化学予防」
の公費負担対象年齢を考慮して,ツ反検査を29歳以下に限定して実施している保健所
が多かった。しかしながら,最近では30歳~49歳の日本人の約95%は結核未感染と
推定されること,QFTを用いれば既往BCG接種の影響を受けずに結核感染を効率よく
診断できること,及び「潜在性結核感染症」に対しては従来以上に積極的な治療の適用
が推奨されていることなどを考慮すると,今日では30歳以上の年齢にも感染の有無の
確認検査を積極的に行うべきである。
ところで,QFT検査の結果が「陽性」と判定された場合,(ツ反の陽性と同様に)
それが結核の既往(過去の結核罹患や古い感染歴)を意味するのか,それとも最近の感
染を意味するのかを区別することはできない。特に結核既感染率の高い集団(わが国で
は高齢者等)を対象にQFT検査を実施する場合には,「陽性」=「最近の感染あり」
と言えない事例が多くなることに留意する必要がある。
その一方で,高齢者集団を対象としたQFT検査では,集団の年齢構成から推定され
る既感染率よりもQFT陽性率がかなり低いことも報告されている。つまり,高齢者で
は結核既感染でもQFT陰性を示す例が比較的多いことを念頭に置いて対応する必要が
ある。その意味で,QFT検査の実施にあたっては,対象年齢の上限を設定すべきとの
考え方もあるが,現時点ではこれに関する十分な知見がない。したがって本手引きでは,
QFT検査の対象年齢の上限についての提案は控えるが,参考となる知見が得られるま
では,中高齢者(例えば50歳以上)には限定的な適用が望ましい。
ただし,接触者健診の対象者が「結核発病の高危険因子」を有する場合は,潜在性結
核感染症(LTBI)のスクリーニングの意義が特に大きいので,中高齢者(例えば50
歳以上)であってもQFT検査を実施し,QFT陽性ならLTBIの治療を積極的に行うこ
とを推奨する。
一方,対象年齢の下限の設定にあたって,QFT検査の利用に関する米国CDC発行の
ガイドラインでは13),18歳以上に対するQFT検査は有用という判断をしているが,
17歳以下の場合はQFTの検査特性に関する十分なエビデンスがないとしている。この
点について日本結核病学会予防委員会の指針14)では,さらに踏み込んだ見解を示して
いる。つまり,「QFTの適用年齢は十分な知見が今のところないので,5歳以下の小
児についてはこの判定基準(成人での判定基準)は適用されない。また12歳未満の小
児については,全般に応答は成人よりも低めに出ることを念頭に置いて,結果を慎重に
解釈する必要がある」との見解である。
これは,5歳以下の乳幼児に対してはツ反検査を優先するよう勧告し,6歳以上(12
改訂第3版(改訂部分=朱書き)
歳未満)に対してはツ反検査を優先しつつ,QFT検査(ツ反との併用を含む)も有用
な検査法と位置づけ,その結果の解釈を慎重に行うよう求めたものとも解釈される。
12歳以上(18歳未満)の年齢層に対するQFT検査の適用方法には触れていないが,
QFT検査の実施体制が整備されている地域においては,QFTを優先し,必要に応じて
ツ反を併用するという方法でもよいだろう。(妥当性の高い判定基準の提案をめざして,
接触者健診における小児対象のQFT検査の成績を蓄積する意義は大きいので,結核研
究者との連携のもと,小児に対してQFT検査をツ反との併用で実施する意義はある。
その場合,小児ではQFTの結果が「陰性」であっても「未感染」とはいえないことが
ありうることを考慮して併用すること。)
また,QFT検査の実施体制が十分に確保できない場合,または集団感染が疑われる
ような事例で対象者が多数にわたる場合には,まずツ反検査をし,対象を限定してQFT
を行うことも考えられる。この場合にはツ反検査で発赤10mm以上(あるいは硬結5mm
以上)に行うことを原則とする。集団感染対策で健診対象者が多い場合には,健診の費
用対効果等も考慮して15),まず発赤20mm以上(あるいは硬結10mm以上)の者に
QFTを行い,QFT陽性率が明らかに高い(年齢に対して予測される推定既感染率より
も有意に高い)場合には発赤10mm以上(あるいは硬結5mm以上)などに枠を拡大
するような方式も考えられる。
感染曝露後QFTが陽転するまでの期間(いわゆる「ウィンドウ期」※注)について
の詳細な観察は,未だ行われていない。しかし,数少ない観察であるが,2~3ヶ月程
度16)と推定される。
(※注)ウィンドウ期(window period)とは?
結核感染が明らかな者でも,感染初期はQFT及びツ反検査で陽性反応を検出できない。
感染してからQFTまたはツ反で結核の感染を判定できるようになるまでの期間(現状
では2~3ヶ月程度と推定)を「ウィンドウ期」と呼んでいる。
Jan 19, 2009
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment