Nov 21, 2007

iPS cell

 人間の皮膚細胞から、さまざまな臓器や組織の細胞に成長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功したと、京都大学の山中伸弥教授(幹細胞生物学)らの研究チームが発表した。患者と遺伝情報が同じ細胞を作製でき、拒絶反応のない移植医療の実現に向け、大きな前進となる成果だ。山中教授は「数年以内に臨床応用可能」との見通しを示している。米科学誌「セル」電子版に20日掲載される。

 山中教授らはやはり万能細胞として知られる「胚(はい)性幹細胞(ES細胞)」の中で、重要な働きをしている4個の遺伝子に着目。30歳代の女性の顔から採取した皮膚細胞に、ウイルスを使ってこれらの遺伝子を組み込み、約1か月培養したところ、ヒトES細胞と見かけが同じ細胞が出現した。

 培養条件を変えることによって、この細胞が、神経細胞や心筋細胞などに変化できる「万能性」を備えた「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」であることを確認。作製効率は皮膚細胞約5000個につき1個で、臨床応用するのに十分という。

 これまで再生医療で脚光を浴びていたES細胞には〈1〉人間に成長する可能性がある受精卵を壊して作るため、倫理的な批判を伴う〈2〉移植に使うと拒絶反応が避けられない——という問題があった。クローン技術を利用するクローンES細胞を使うと拒絶反応を回避できるが、材料となる卵子の確保が困難だ。iPS細胞なら、これらの問題をすべて克服できる。

 ただ、山中教授らが遺伝子の組み込みに利用したウイルスは、発がん性との関連が指摘されているほか、組み込んだ遺伝子の一つはがん遺伝子だ。移植後にがん化しないような工夫が課題として残る。

 山中教授らは昨年8月、同じ4遺伝子をマウスの皮膚細胞に組み込み、iPS細胞の作製に成功したと報告。人間でも可能かどうか実験していた。

 米ウィスコンシン大の研究チームも人間の皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功したと発表、こちらの成果は米科学誌「サイエンス」電子版に20日掲載される。方法はほぼ同じだが、京大とは、組み込んだ遺伝子4個のうち2個が違うという。今後、万能細胞を用いる再生医療は、iPS細胞を中心に展開していく可能性が高い。

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