輸血関連急性肺障害(TRALI : Transfusion-Related Acute Lung Injury)
輸血後の呼吸障害については1950年代から報告されていましたが、その中の一部についてTRALIという病態が定義づけられたのは1980年代になってからです2) 3)。日本赤十字社では1998年から輸血用血液の添付文書に重大な副作用としてTRALIを記載しています。
TRALIは発症時に適切な処置が行われないと死亡につながる危険性のある重篤な非溶血性輸血副作用ですが、心原性肺水腫、過重輸液・輸血、肺炎、誤嚥、敗血症、 ARDS(急性呼吸窮迫症候群)等と診断される可能性があり、十分な注意が必要です
病態・鑑別
輸血開始後数時間以内(1〜6時間以内多くは2時間以内)に激しい呼吸困難を呈します。胸部X線像に両側性肺水腫に伴う所見が認められ、低酸素血症(動脈血酸素分圧30〜50mmHg程度)を示します。多くの症例で湿性ラ音が聴取され、呼吸困難に伴う頻脈発熱重篤な場合は血圧低下も起こすと言われています。
◆ TRALIは→循環負荷等の心臓に由来する場合と異なり胸部X線像に心陰影拡大はみられません。中心静脈圧(CVP)は正常で肺動脈楔入圧(PAWP)も正常か低値を示します。
◆TRALIは→ARDSと病態は似ていますが呼吸管理等の適切な処置により、約80%の患者では症状が発現してから48〜96時間以内に臨床症状の改善がみられます。
●TRALI診断の診察検査項目
◆胸部X線
◆胸部聴診
◆血液ガス(特に動脈血酸素分圧または飽和度)
◆中心静脈圧(CVP) 肺動楔撰入圧(PAWP)
◆バイタルサイン(特に発熱の有無血圧の変化)
原 因
抗白血球抗体(抗HLA抗体抗顆粒球抗体)と白血球との抗原抗体反応により補体が活性化され、好中球が肺の毛細血管に損傷を与えることでTRALIが発症すると推測されていますが、詳細な機序については解明されていません5)。なお、多くの場合は輸血用血液に抗白血球抗体が検出されますが、患者血液中に検出される場合もあります。
治 療
輸血開始後に急激な呼吸障害があらわれた場合には、直ちに輸血を中止(ラインは確保)して呼吸管理を行います。
◆ 呼吸管理・酸素療法 → ほぼ全例で酸素ガスの吸入が必要となります。
・呼気終末陽圧(PEEP : positive end-expiratory pressure)呼吸療法
→ 約70%の症例でPEEPによる人工呼吸装置の使用が必要となります。
◆ 薬物治療・副腎皮質ステロイド剤 → 血管透過性冗進の改善をおもな目的として
投与します
・昇圧剤 → 重篤で低血圧を起こしている場合に投与します
※TRALIでは循環血液量が過剰状態にないことから,利尿剤の投与は効果がないだけでなく,有害であるとの報告もあります6)。
発症頻度
◆ 発症率*:輸血バッグ数の0.01〜0.04%3) 7) 8) 9)
◆ 死亡率:発症例の6-10%9) 10)
*報告により発症率に差があるのは ,TRALIが心原性肺水腫,過量輸液・輸血,肺炎,誤嚥,敗血症, ARDS等の診断のもとに見逃されている可能性があることによるものと推察されています。
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