Dec 8, 2007
Age-related Macular Degeneration(AMD)
■概念・定義
加齢黄斑変性は滲出型と萎縮型に分けられる。滲出型は黄斑部の網膜色素上皮細胞-ブルッフ膜-脈絡膜の変化により発生する脈絡膜新生血管 (choroidal neovascularization: CNV)とその増殖変化を本態とする疾患である。CNVは網膜色素上皮下、ついで網膜下に発育する。出血、滲出による網膜色素上皮剥離、網膜剥離を呈し、それらが吸収した後には萎縮・瘢痕が形成され、高度の永続する視力低下を生じる。進行が速い。萎縮型は黄斑部に網膜色素上皮-脈絡毛細血管板の地図状萎縮病巣が形成されるが、進行は緩慢である。
■疫学
欧米の研究結果
人口あたりの頻度:チェサピークベイ(米国)の住人を対象にした場合、50歳以上の1.8%が加齢黄斑変性であり、米国の人口に換算すると75歳以上では 640,000人が加齢黄斑変性であると推定されている。ビーバーダム(米国)の住人を対象にした場合、人口の1.6%、75歳以上の7.1%、ロッテルダム(オランダ)の55歳以上の住人の1.7%、85歳以上の11%、ブルーマウンテン(オーストラリア)の49歳以上の住民の1.9%、85歳以上の 18.5%が加齢黄斑変性に罹患していると報告されている。滲出型と非滲出型の比はいずれの研究でも2:1である。性比は1.9:1.6(ビーバーダム)、1.9:1.4(ロッテルダム)、2.4:1.9(ブルーマウンテン)と女性に多い。しかし、これらのスタディでは年齢をマッチさせて比べると性差は有意ではない。
我が国における調査結果
1998年に九州久山町の50歳以上の住民を対象におこなわれた調査では少なくとも1眼に滲出型を有する人は0.67%、萎縮型を有する人は0.2%であり、男性に多い。5年発症率は滲出型0.6%、萎縮型0.3%と報告されている。
滲出型は特に視力予後不良であり、来るべき高齢化社会の問題点になると予測されているので、以下滲出型について述べる。
■病因
網膜色素上皮細胞は視細胞の外節の貪食機能を始め神経網膜の環境を保持する上で重要な役割をはたしているが、加齢性の変化として、消化残渣物としてのリポフスチンの蓄積や網膜色素上皮細胞の脂質化が起こる。また、加齢とともに色素上皮下のブルッフ膜の肥厚が起こり、視細胞-網膜色素上皮-ブルッフ膜間の生理的環境に変化が生じる。最近ではこれらの過程に遺伝も関与しており、環境要因も関係があると考えられるようになった。欧米ではcomplement factor H 遺伝子多形との関連が報告されている。環境要因としては喫煙、日光暴露が関係ある。こうした変化によっておこった慢性炎症や虚血が脈絡膜からの新生血管の原因になると考えられている。CNVはブルッフ膜の破損部から網膜色素上皮下、網膜下へと進展してくる。
■症状
中心暗点、変視症、非可逆的かつ高度な視力低下。
■治療
中心窩外CNV
1)光凝固術
中心窩外のCNVについてはクリプトン・レッド、アルゴン・ダイ・クリプトン・イエローレーザーなどを用いて行う。光凝固術の効果については米国の大規模な治療研究結果では、蛍光造影で確認できたCNVの全領域を強めた凝固するという方法が有効であると報告されている。中心窩外のCNVについては本邦でも最も良く行われている治療である。治療によりCNVの瘢痕化を促進し、出血、滲出の吸収を促進する。
2)CNV抜去
網膜色素上皮上の傍中心窩CNVに対しては抜去術の選択肢もある。傍中心窩CNVは光凝固では遺残、再発の可能性が高く、CNVが中心窩に達すると視力低下を生じること、atrophic creep(レーザー瘢痕の拡大)が生じ、中心窩に及ぶと視力が落ちること、CNVが閉塞した場合でも光凝固部に一致して絶対暗点が生じるなどの問題がある。CNVの抜去によって出血、滲出が早期に吸収し、中心窩の機能が保たれれば視力の維持・改善が得られる可能性が高い。
中心窩CNV
各種治療が試みられてきたが、現在の第一選択は光線力学的療法である。
1)光線力学的療法
光線力学療法は肘静脈から静注した光感受性物質がCNVの内皮細胞に集積した時期にCNVに長波長の光照射を行い、光化学反応を起こす。その結果生じた細胞毒性の強い一重項酸素などの活性酸素によってCNVの内皮細胞が障害され、内皮細胞に血小板が付着し、やがて血栓が形成されCNVの管腔が閉塞する。本法では非熱性レーザーを使用し、光化学反応はCNVに限局して生じるため視力低下や中心暗点の生じる可能性は極めて少ないとされている。しかし視力が低下することがあるので、通常0.5以下を対象にするのがよい。欧米の臨床治療研究の結果では、視力低下を遅らせることができることが示されている。日本人では治療後2年間は治療前の平均視力が保たれていた。病変が小さい場合、ポリープ状脈絡膜血管症はよい適応とされている。
2)栄養血管に対する光凝固
中心窩を含むCNVの治療に試みられている。インドシアニングリーン造影を用いてCNVへの脈絡膜血管から流入血管(栄養血管)を検出し、選択的に凝固する。凝固部位が中心窩以外であるため、治療による視力低下を起こさない。また症例によっては視力の改善も期待できる。小型のCNVの外に細い長い栄養血管がみとめられる場合が良い適応である。問題は栄養血管の検出には習熟を要するため、栄養血管の検出率が低いことと、良い適応になる栄養血管が少ないことである。
3)手術療法
感覚網膜下の中心窩CNVには抜去術や抜去後色素上皮の移植を行う方法や、中心窩を移動する手術もあるが、最近はあまり行われていない。
4)抗血管新生薬
抗血管新生薬は新生血管増殖因子(VEGF)を不活化することによってCNVの活動性を抑えることを目的にする。抗血管新生薬にはVEGFアプタマー、モノクロナール抗体、VEGF抗体、ステロイド剤がある。現在わが国で使用可能なVEGF抗体(ベバシズマブ 商標名アバスチン)はoff-Labelであり、加齢黄斑変性のCNVには適応とされていないが、米国では硝子体内投与が加齢黄斑変性で、視力と病変の改善に有用であったと報告されている。
中心窩を含む大きな硝子体出血・網膜下出血
中心窩を含む網膜下血腫・硝子体出血・硝子体手術・網膜下血腫移動術
大量の中心窩を含む網膜下出血をおこした場合、出血が新鮮な時期には網膜下血腫移動術、網膜下血腫除去術の適応になる。更に乗じて硝子体出血を来した場合には硝子体手術の適応となることがある。
サプリメント
大量の亜鉛、銅、抗酸化ビタミンから成るサプリメントは、視力が20/30以上で加齢性黄斑変性前段階の所見を有する人あるいは対側眼がすでに進行期の加齢黄斑変性である人では、滲出型加齢黄斑変性への進行を遅くするのに有用であったと報告された。
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